「重さを上げる前にやるべきこと」を知るトレーナーが、なぜ事業では負荷設定を誤るのか
パーソナルトレーニングの現場では、初回セッションでいきなり重量を扱うことはまずありません。可動域、左右差、呼吸、過去の傷害歴。先に「現在地」を測ります。にもかかわらず、同じ人物が事業を始めた瞬間、なぜか初月から全力でアクセルを踏み込む。指導現場と起業現場の両方を経験してきた私が、最も奇妙に感じている矛盾の一つです。
トレーニングにおける「負荷設定」の前提
適切な負荷とは、絶対値ではなく相対値で決まります。100kgのスクワットが適切かどうかは、その人の関節の可動域、神経系の発火パターン、回復能力、そして睡眠と栄養の状態によって変わるためです。
優れたトレーナーほど、最初の数週間は意図的に軽い重量で動作を観察します。なぜなら、キャパシティを可視化しないまま負荷を上げると、伸びるどころか怪我で停止するからです。これは経験則というより、生理学的に説明可能な事実だと考えられます。
事業で起きている「無可視化のまま増量」
ところが事業の現場では、同じ人がまったく逆のことをしている場面が頻繁に観察されます。広告費を一気に投下する。人を急に採用する。SNSの更新頻度を倍にする。いずれも「負荷を上げる」行為ですが、その前に自分の現在のキャパシティ──時間、現金、意思決定の処理速度、検証済みの再現性──を測った形跡が見当たらないのです。
結果として何が起きるか。広告は回るが受注処理が追いつかない。採用したが教育する余白がない。発信量は増えたが質が落ち、既存顧客が静かに離れていく。身体で言えば「フォームが崩れた状態で重量だけ伸ばし、肩を壊す」のと同じ構造だと考えられます。
「キャパシティの可視化」という設計思想
身体でも事業でも、本当に重要なのは「今、自分はどの重さまでなら正しいフォームで扱えるか」を数値で把握しておくことです。私の場合は、起業後、週あたりの可処分時間、意思決定の件数、現金の減少速度、この3つを毎週記録するようにしました。地味ですが、これがあると「次に何を増やしてよいか」が論理的に判断できます。
逆に言えば、可視化していない状態でアクセルを踏むのは、目隠しで重量を上げているのと変わりません。伸びる時は伸びますが、止まる時は一気に止まる。再現性がないのです。
あなたが今、事業や副業で「もう一段アクセルを踏むべきか」と迷っているなら、踏む前にひとつ問いを置いてみてください。──現在のキャパシティを、数値で言えますか。言えないのであれば、増量より先にやるべきことがあるはずです。具体的な可視化の指標設計については、noteの深掘り記事で扱っています。