消毒液を自分で補充する人が、半年後に発注ミスを防いでいる理由
ジムで興味深い観察があります。使い終わった器具の消毒液が切れかけているとき、黙って補充ボトルを取りに行く人が、一定数存在します。数十秒の作業です。誰に褒められるわけでもありません。ところが、こうした習慣を持つ方々を追跡していくと、職場でも半年後、一年後に「気づけばキーマンになっている」ケースが多く見られます。今回はこの現象を、組織論と身体感覚の両面から分析してみます。
「誰かがやるだろう」という空白の正体
消毒液が減っている、という状態は、厳密にはまだ問題ではありません。次に使う人がわずかに不便を感じるかもしれない、という程度の予兆にすぎない段階です。この「まだ問題ではないが、放置すればいずれ問題になる領域」を、私は空白地帯と呼んでいます。
組織における空白地帯は、担当者が明確に決まっていない業務、責任範囲の境界線、あるいは誰も見ていない前提条件の中に潜んでいます。備品の在庫、書類のフォーマット、共有フォルダの整理。どれも「誰かがやるだろう」で処理されがちな領域です。
興味深いのは、この空白を埋めに行く行動が、指示されたタスクとは異なる筋肉を使う点です。トレーニングで言えば、大きな動作を支えるインナーマッスルに近い働きと言えるかもしれません。
予兆察知能力は、繰り返しで鍛えられる
消毒液の残量に気づく人は、単に親切なのではありません。指導現場で観察された傾向では、この種の方々は「全体の稼働状態を無意識にスキャンする習慣」を持っています。ジムに入った瞬間、器具の配置、他の利用者の動線、備品の状態を、視界の端で捉えているのです。
これはビジネスにおける異常検知能力そのものと考えられます。発注ミスというのは、多くの場合、直前ではなく数週間前から予兆が出ています。在庫表の更新頻度が落ちる、担当者の返信が遅くなる、いつもと違う金額の見積もりが混じる。こうした微弱なシグナルを拾えるかどうかは、日々の「空白を埋める習慣」で鍛えられた注意配分の精度に依存します。
逆に、指示されたことだけを処理する働き方を続けると、視野は自分の担当範囲に固定されていきます。半年もすれば、周囲の予兆はほぼ見えなくなっていると推測されます。
信頼残高は、記録されない行動で積み上がる
もう一つの側面が、信頼残高です。消毒液を補充する行為は、誰にも記録されません。しかし、たまたま見ていた人の記憶には残ります。そして人の記憶は、その人が上司や決裁者になったとき、驚くほど正確に呼び戻されるものです。
私が経営者の方々と話していて感じるのは、抜擢の判断基準の多くが、KPI ではなく「この人は空白を埋める側の人間か」という一点に収束していく傾向です。数字は後追いで検証されますが、信頼の初期値はもっと手前の観察で決まっています。
数十秒の補充作業と、組織の発注ミスを未然に防ぐ力。一見無関係に見える二つは、同じ根から伸びた枝だと私は考えています。あなたの職場に、いま補充されていない消毒液は、どこにありますか。この視点をさらに深掘りした事例分析は、note の記事にまとめています。