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ベンチプレスの可動域チェックから逆算する、MVPを壊さないスケール判断基準

ベンチプレスの可動域チェックから逆算する、MVPを壊さないスケール判断基準

トレーニング歴のある方なら、誰もが知る鉄則があります。「フォームが固まる前に重量を上げてはいけない」というものです。この順序を守れなければ、関節を痛め、伸び悩み、最悪の場合は競技人生そのものを失います。ところが、この鉄則を体で理解しているはずの経営者やエンジニアが、事業フェーズになると同じ過ちを繰り返す現象が、私の観察では非常に多く見られます。

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なぜ「フォーム未完成のスケール」が起きるのか

ベンチプレスにおいて、初心者が陥る典型的なミスは「自分のフォームは固まった」と本人が錯覚することです。胸までバーが下りていない、肩が浮いている、足の踏ん張りが効いていない──こうした崩れは、軽い重量では表面化しません。ところが重量を上げた瞬間、隠れていた弱点が一気に露呈し、フォーム全体が破綻します。

事業のMVP(Minimum Viable Product)も同じ構造を持っていると考えられます。少数のユーザーや知人経由のテスト環境では、プロダクトの粗は「熱量」や「個別対応」で吸収されてしまうのです。経営者本人は「機能は十分動いている」と判断しがちですが、それは軽い重量しか乗っていない状態での自己評価に過ぎません。

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可動域チェックという、MVPの完成度指標

私が指導現場で重量アップの判断に使っていたのは、主観的な「できそう」ではなく、客観的な可動域チェックでした。具体的には、規定の可動域を、規定の速度で、規定の回数、フォームを崩さず反復できるか。この3条件が揃って初めて、次の重量に進む資格があるとみなします。

MVPに置き換えるなら、次の3点が同等の指標になり得ると考えています。第一に、想定したコアユースケースを、サポートなしでユーザーが完遂できているか。第二に、リテンション(再訪・継続利用)が偶発ではなく、再現性のある数字として出ているか。第三に、顧客獲得コストと提供価値のバランスが、感覚値ではなくユニットエコノミクスとして可視化されているか。

このうち一つでも「まだ自分が手で支えている」状態であれば、それは可動域が確保できていないベンチプレスと同じ構造です。広告費を投下したり採用を加速したりすれば、表面上は数字が伸びるかもしれませんが、根本のフォームは崩れたままで、ある重量で確実に折れます。

順序を逆転させる誘惑への対処

興味深いのは、トレーニーとしては慎重な人ほど、事業では順序を逆転させやすい傾向が観察される点です。理由はおそらく、身体は痛みという即時フィードバックを返すのに対し、事業の崩壊は数ヶ月遅れて訪れるからだと推察されます。フィードバックの遅延が、判断を歪めるのです。

であれば対処は明確で、フィードバックを意図的に前倒しする仕組みを設計するしかありません。週次でユニットエコノミクスを点検する、コア機能の完遂率を毎日見る、といった「痛みを早く感じるための計器」を持つこと。これは派手な施策ではありませんが、フォームを守りながら重量を上げていく唯一の方法だと、私は考えています。

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