紐を結び直す回数が多い人は、なぜ契約書も何度も差し戻されるのか
ジムのフロアで、セットの合間に何度もシューズの紐を結び直している人を見かけることがあります。一見すると些細な癖ですが、パーソナルトレーナー時代の観察では、この習慣を持つ方は共通して「初動の精度」に課題を抱えている傾向がありました。そして興味深いことに、同じパターンが契約書のドラフト作業にも表れると考えられます。
「結び直し」が示しているのは、初期設定への無関心
紐を結び直す行為そのものに問題があるわけではありません。問題は、なぜロッカールームで一度で決められなかったのか、という点にあります。
指導現場で観察された傾向では、繰り返し結び直す方の多くは、最初に結ぶ瞬間に「これで足の着地は安定するか」という検証を省略しています。とりあえず結ぶ。動いてから違和感に気づく。戻って直す。この往復が、1セッションで3〜4回発生することも珍しくありません。
着地の精度は、初動、つまり紐を結ぶその瞬間にほぼ決まっています。動き始めてから修正しようとすると、フォーム全体が乱れ、修正コストは何倍にも膨らみます。
契約書ドラフトで起きている、同じ構造
この構造は、契約書のドラフト作業にそのまま重なります。
差し戻しが多い方の初稿を拝見すると、多くの場合「とりあえず出す」という姿勢が透けて見えます。相手方の関心事、決裁ラインの温度感、想定される反論箇所──こうした初期条件の検証を後回しにして、まず形にすることを優先している。結果として、二稿、三稿と往復が続き、締結までのリードタイムが本来の倍近くになるケースが観察されます。
一方、初稿の精度が高い方は、ドラフトに着手する前に相当の時間を「結ぶ前の確認」に費やしています。この初期投資が、後工程での結び直しをほぼゼロにしていると考えられます。
初動の精度は、才能ではなく設計
「結び直しが多いのは性格の問題では」と問われることがありますが、私はそうは考えていません。これは意識と手順の設計の問題です。
トレーニングであれば、紐を結ぶ前に足指を広げ、踵を靴の後方に寄せ、締め具合を段階的に決める。この手順を持っている方は、一度で決着がつきます。
事業でも同様に、初稿を書く前のチェックリストを持っているかどうかで、結果が大きく変わってきます。差し戻し回数は、そのままリードタイムであり、機会損失に直結する数字です。
ご自身の直近の契約案件を振り返ってみてください。初稿から締結まで、何往復ありましたか。その回数は、能力ではなく、初動の設計で確実に減らせるものだと私は考えています。具体的な初期チェックリストの設計方法については、note で別途詳しく整理していますので、関心のある方はそちらもご参照ください。